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ドコモマーケティングプラットフォームの可能性

【後編】ドコモのプラットフォーマーとしての可能性

登壇者 NTTドコモ 新谷 哲也
2019年12月まで約5年半の間、大手DSPのThe Trade Deskにてプログラマティック広告の普及に努める。The Trade Desk以前は電通にて10年間デジタルビジネスに従事。20年以上にわたりさまざまなインターネット広告、アドテクノロジー関連事業に携っており、広告プランニングだけではなく、企業戦略立案・投資まで幅広い経験がある。2021年7月より現職。現在はNTTドコモの広告ビジネス全般を担当し同社の広告事業拡大に尽力している。


登壇者 西井 敏恭氏
2001年から世界一周の旅に出た後、連載していた旅ブログが好評で旅の本を出版。2003年からECの世界へ。2014年に二度目の世界一周の旅をしたのち、起業。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケティング支援やデジタル事業の協業・推進を行う。現在はシンクロの代表以外にも、グロース X 取締役CMO、オイシックス・ラ・大地 専門役員など多数兼任。
GROOVE X CMO
シンクロ代表取締役社長
オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT

Cookieレス時代を迎えるにあたり、プラットフォーマーとの関係性やこれからやるべき優先順位についてディスカッションしてきました。最終章では、ドコモが所有するデータの量と質の可能性を始め、ドコモが開発した独自ターゲティングアルゴリズム技術、ユーザーデータの保護やデータ利用の拡張利用可能性についてディスカッションしていきます。

(1)ドコモが保有するデータの量と質の可能性について

[新谷]
ドコモは国内ではかなりのリーチを持っています。日本ではトップ10の中に位置付けされ、大手プラットフォームと肩を並べるくらいのリーチがありながら、そのメリットを生かし切れていないのが現状です。
データでは、携帯電話ならではの特性を活かして生年月日や居住地などの正確なデータを持っています。それに加えて「基地局データ=人流」を持っています。人の動きをかけることで、学生なのか、サラリーマンなのか、在宅ワークなのか、趣味がキャンプなのか、といったデータをクラスタリングできます。
ただしリアルタイムの基地局データは個人情報と密接な関係があるので、データとしてはターゲティング可能だが、お客様のプライバシーポリシーから離れる使い方はできません。その意味から、ある程度丸めて使うことはできるので、人流を掴んだりリーチを増やしたりといった観点で広告実装し、潜在ニーズを発掘するといった使い方が正しいと思います。
また基地局データ以外でも、dポイントやd払いを初め、たくさんのdサービスから生活者の皆さんとの接点データを持っています。

■図4:ボリュームが国内トップクラスのドコモデータ

■図5:なぜ今、キャリアデータなのか?


[西井]
Webの行動履歴は重要ですが、Eコマースをやっていた立場で言うと、購買行動が一番お客様を掴むには良いデータだと思います。例えば食品会社のデータを見ると、購買行動で一定のライフスタイルが掴めてきます。毎週似た買い物をしているのに、ある時期子ども向け商品を購入するようになったなど、お子さんが生まれたといったライフステージもある程度把握できます。
ただしOne to Oneで使いたい訳ではないが、アマゾンや楽天のように中に入らないと使えないのではなく、そこを我々にも開放されると色々な使い方ができると思います。

■図6:ドコモデータの強み・安心・信頼性における優位性

[新谷]
最近では大手小売店様のご協力により、一部データを活用したマーケティングサービスを行っています。どれだけ購買がリフトしたかなど、たくさんのデータを持つ強みを生かした取り組みが行われています。

(2)顧客理解エンジンなど、独自のターゲティングアルゴリズム技術の可能性について

[新谷]
またドコモでは、顧客理解エンジンというアルゴリズムを持っています。これは従来のドコモ会員基盤の行動データを横断的に解析し、顧客理解(位置情報に基づく属性や行動推定・興味関心予兆推定・行動パターン推定)の技術により、プロファイリングや顧客のパーソナライズができるので、最適な広告を配信することができます。
これをマーケティングにもっと活用できるのではないかと考えています。例えばアプリの立ち上げに伴ってユーザーに対して適切な広告プッシュするタイミングを分析したり、スーパーの新規顧客獲得のためにどんな顧客に対して広告を配信すればよいのか行動予兆をしたり、といった使い方が期待できます。一部すでに始動しているので、さまざまな広告主様に提供するために実装されています。現在はご要望を頂きながら、広告主様ごとに個別に対応しています。

■図7:ドコモデータの強み・安心・信頼性における優位性

[西井]
キャリアだから収集できるデータがあるということは、非常に強いことですね。キャリアならではの圧倒的優位性を使って、ユーザー1人ひとりへの最適化を行うことで広告効果がさらに高くなることが想像できます。

[新谷]
そうです。これはユーザーだけにメリットがあるのではなく、広告主様に対しても「顧客を理解し、顧客に対して適切な広告とは何か」ということを分析していく取り組みにもなります。また顧客を理解してサービスを作るといったゼロ次分析にも活用しています。データを分析し、クラスタリングやセグメントを行うことで次の購買につなげることも可能です。

[西井]
我々もそうですが、例えば自社サービスを行っていても、自社サービスの顧客をよく理解していなこともあり、定量として理解できるようになるのはかなりメリットがありますね。

(3)コマーケティングによる外部配信やジオターティングなど、データ利用の拡張利用可能性について

[新谷]
現在GAFAのプラットフォームに対して、ドコモのデータをアクティベーションして運用する取り組みを始めています。これは基地局を軸にした「行動学的属性(生活行動ログをベース)」をクラスター抽出することで行動予兆を構築し、最適な広告を配信するものです。それにより誰にターゲティングしたいのかはっきり把握できるので、大手プラットフォームに対してもある程度アドバンテージがあると考えています。

■図8:ドコモにしかできないソリューション①

■図9:ドコモにしかできないソリューション②

[新谷]
また誰にいつ、どのタイミングで広告を配信するかということに対して、以下のような取り組みを行っています。ドコモが昔から行っているメールを使ったサービスの一つにメッセージS(スペシャル)というものがありますが、広告効果が高いことで知られています。これを使った広告配信を考えています。
またLive Boardという屋外広告のサービスを電通と一緒に立ち上げました(OOH広告※6)。デジタル屋外広告の一種ですが、リアルタイムの位置情報を把握し、データ分析を行うことで効果的な広告を配信することが可能です。例えば学生に対してリーチしたい場合、行動履歴などから学生が多いエリアの屋外広告に広告配信を行うといった形です。現在色々な取り組みが増えています。

※6 out of homeの略。外出している不特定多数の人々向け広告。

[西井]
OOH広告は海外で見ても、もっと効果があると思っています。日本ではなかなか活用されないので、もっと面が広がり、進化すべきだと思います。

[新谷]
今回は「誰に」ターゲティングするのかを中心に語ってきましたが、ドコモが今後プラットフォーマーになる場合、どんな世界が想像できますか?

[西井]
GAFAが強かった理由の一つは「誰に」というターゲティングが出来ていたことです。我々マーケッターにとって良かったことはこの10年「誰に」が明確になったことです。その一方でCookieレスによる課題に直面しています。
しかしドコモはたくさんの正しいデータをお持ちで潜在的な優位性がかなりあると思います。自社データにはない価値のあるデータを活用することができれば新たなチャンスを掴むことができる。またOOH広告は新たな可能性があると思います。例えば電車広告などは、その時間帯に誰が乗っているのかがわかれば効果的な広告配信が可能です。日本ではなかなか新しい広告手法が開発されていませんが、その意味からも面が広がる広告が増えれば、現在Cookieレスにどう対応していけばよいのか悩んでいるマーケッターの立場としても解決の糸口が見えるのではないでしょうか。

(4)最後に

[西井]
今回のディスカッションでは、「誰に」を明確にし、顧客を理解することは、ラストクリックやトラッキングという物理的追跡だけでなく、トータルで計測し分析する重要性をより鮮明にしてくれました。
「誰に」でポテンシャルがあるドコモは大手プラットフォーマーと並ぶプラットフォーマーになれるのか、また近い将来起こりうるCookieレスに対してアドバンテージを取れるのか、今後のドコモの動向から目が離せません。